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最高裁判所第一小法廷 平成6年(行ツ)105号 判決

愛媛県川之江市川之江町一一八四番地

上告人

三宅隆男

愛媛県伊予三島市中央五丁目九-四五

被上告人

伊予三島税務署長 田中修身

右指定代理人

泉本良二

右当事者間の高松高等裁判所平成三年(行コ)第三号所得税の決定処分等取消請求事件について、同裁判所が平成六年三月一五日言い渡した判決に対し、上告人から全部破棄を求める旨の上告の申立てがあった。よって、当裁判所は次のとおり判決する。

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告人の上告理由について

第一審判決添付別表(一〇)記載の土地が遅くとも昭和四五年一二月末ころまでにはたな卸資産に転化したとした原審の認定判断は、原判決挙示の証拠関係に照らし、正当として是認することができる。右認定判断に関する所論は、原判決の結論に影響しない点をとらえてその違法をいうか、又は原審の専権に属する証拠の取捨判断、事実の認定を非難するものにすぎず、採用することができない。

その余の所論の点に関する原審の認定判断は、原判決挙示の証拠関係に照らし、正当として是認することができ、その過程に所論の違法はない。論旨は、違憲の主張を含め、原審の専権に属する証拠の取捨判断、事実の認定を非難するか、又は独自の見解に立って原判決の法令違背をいうものにすぎず、採用することができない。

よって、行政事件訴訟法七条、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 井嶋一友 裁判官 小野幹雄 裁判官 高橋久子 裁判官 遠藤光男 裁判官 藤井正雄)

(平成六年(行ツ)第一〇五号 上告人 三宅隆男)

上告人の上告理由

第1点 (憲法違反の部分)

本事件は相続財産である山林、畑等合計約一万八千平方米を造成してアパート、貸倉庫、貸店舗、駐車場、貸資材置場等の経営を始めたところ、経営資金の必要上造成地の一部を分譲売却したものであるが、昭和五十年度、同五十一年度、同五十二年度の各係争年度での分譲の売却代金計、一一六五八万円(上告人申告額)に対する直接造成工事費等、計三八三二万七三二四円の支出について被上告人は造成金額については認めるが、この造成費用が後年度に売却を予定している土地(たな卸し資産)への先行支出との区分が明確でないので、この造成工事費を造成地の面積全体を処分可能見込面積としてこれに按分、一平方米につき二九六十円であると主張して原判決、二審判決共、これを採用した判決となっております。

然しながら、この判決には重大なる事実誤認があります。

金額には争いのない三八三二万七三二四円の造成工事費は係争年度である昭和五十年、同五十一年、同五十二年の三ケ年間に分譲した区画のみについて支出されており、この三ケ年間の分譲面積合計約五二三八平方米で除せば一平方米当たりの造成工事費は七三一七円となり被上告人の主張する一平方米当たり二九六〇円とは雲泥の差があります。

被上告人は昭和五十三年に本件係争に係る造成事業について税務調査に入り分譲の相手方の全員について面接調査をしており、又造成地の現場についても詳しく調査を行って造成工事費を算出認定したものであり、被上告人の主張する如き「原告は組織的な帳簿書類を備え付けず、単に断片的な書類しか保存していなかったので、実額による原価計算は不可能であった。」(原判決書一二三頁)

との認定には空恐ろしい程の事実誤認があります。即ち、

(一) 上告人は本件分譲についてはすべて売買契約締結後に区画工事をしている事。(売買契約書で容易に判明)

(二) 国土地理院の作成による航空写真によって各年度に於ける進入路工事及び区画工事と分譲区画との一致については客観的に立証が可能である事。

(三) 上告人は各係争年度に於いては本件造成事業と自己所有のアパート建築工事以外には営利事業を行っておらず、事業費の混同等はなく組織的な帳簿の必要はない事。

(四) 造成事業費は上告人が提出した諸資料を被上告人が取捨選択して認定したものである事等の状況から被上告人はこれらの造成事業費が係争年度に分譲された区画のみの工事費である事を充分に承知しており、又調査をすれば容易に察知し得る立場にありながらこれらの状況を意図的に隠ぺいして不当な課税を強要するものであり、刑法第一九三条公務員の職権濫用罪に相当すると共に憲法第二九条の財産権を侵害するものであると思考するものである。

又百歩譲って上告人が組織的な帳簿を備えていなかった事が「かし」であったとしても、未造成の土地やアパート用地、賃貸用地等分譲を目的とせず、且又、区画工事や進入路工事等も必要としない部分等に対して、これらの工事費である造成工事費を按分する等の処分決定等は、何の法的根拠も有せず、無効な判決である。

第2点 (事事誤認の部分)

原判決及び二審判決は本件係争地約一万八千平方米の全部が遅くとも昭和四十五年十二月末ごろに「たな卸し資産に転化した。」との被上告人の主張を採用しているが、これは次に述べるとおり重大なる事実誤認である。

即ち上告人は本件係争地の土地利用については、別紙附属書類(1)の通り土地利用の主たる目的は賃貸アパートの建設であり、貸倉庫、貸駐車場、貸資材置場等(以下自営物件と言う)の経営である事は明白であるが、資金調達の為に、土地の一部を分譲したところ、被上告人は一部でも分譲すれば、全部を分譲を目的とする「たな卸し資産」と認定し、原判決及び二審判決も被上告人の主張を採用した判決となっております。

然しながら、これらの自営物件について、その敷地を「たな卸し資産」であるとの認定については、重大なる事実誤認であります。

一般的にある資産について、それが一般資産であるか、「たな卸し資産」であるかの客観的な判断は、その資産の態様によって決定されるが、本件の場合は建物の構造規模や、賃貸状況等からも自営物件である事は明白なる事実であります。

本件土地造成事業は、山土の取り除けば大王製紙(株)の工場用地埋立用に無償で施工され、土地がほぼ平坦になったのが昭和五十年の四月ころであり、それから賃貸アパート等自営物件の建設に着手しており、自営物件の敷地と分譲土地との区分も明確である等の状況、更には、分譲部分については分譲前の二ケ年間、製紙会社のスラッジ置場として賃貸していた等の事実からも、本件係争にかかる土地造成の主たる目的は自営物件の経営であり、土地分譲は辺縁部や、半端な部分について二次的に計画したものであり、原判決及び控訴審判決での「昭和四十五年十二月ごろに、たな卸し資産に転化した」との認定は著しく事実に反しており、原判決に影響を及ぼす事は明らかである。

又、素地価格の認定に関して、昭和六十年九月十八日付で提出の被上告人の準備書面で、昭和四十八年一月六日に訴外、石川清三、宇田登、の間で行われた土地売買は宅地造成完了後に坪、五万円で売買されたと記述されているがこの記述は事実と大きく異なり、売主石川清三は、この土地を農地のまま事業用資産として税務署の認定を受けて、租税特別措置法の適用を受けて坪、五万円で売却している事実が判明したが、被上告人はこの事実を隠ぺいしている。

又、この土地は、昭和五十年ごろに山土を取り崩して宅地化されており、本件係争地と同一道路に面する等、条件は極めて類似しているに係わらず、被上告人はこの事実を意図的に隠ぺいしており、この事実は本件素地価額の決定に重要なポイントとなるものであり、原判決に影響を及ぼす事は明らかである。

以上の通り上告人は、原判決及び控訴審について、全面破棄を求めるものであるが、本事件の本質は土地造成の実態のは握が最重要であり、上告人と被上告人の主張の食い違いが非常に大きいので、国土地理院発行の航空写真の拡大写真を係争関係年度である昭和四十五年から昭和五十二年度まで毎年二枚程度取りよせて、写真判定により、上告人及び被上告人の主張の真偽を立証したいので、約一ケ月の猶予をいただいて、右の写真を提出して証拠といたします。

以上

附属書類(1)

本件係争地内の三宅隆男所有の賃貸物件の態様

〈省略〉

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